新型コロナウィルスの流行により、感染のリスクや、不安から日常の様々な行動を自粛している方も多いのではないでしょうか。
感染のリスクを避けるため、歯科医院をはじめとした医療機関にすらいかないようにしている方も多いと聞きます。
特に、歯科治療は、歯の切削片や唾液など、感染のリスクについて、ご不安を感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
歯科医院は、歯科医師はマスクをしていたとしても、患者様はマスクを外さざるを得ません。
コロナ感染について不安に思うのは当然のことと思います。
今回は、歯科治療とコロナ感染についてご紹介いたします。
新型コロナウィルスの現状
新型コロナウィルスは、2021年5月現在、高齢者へのワクチン接種が開始されています。
今後は、高齢者以外にもワクチンの接種の対象が拡大され、感染の抑止につながることが期待されています。
ワクチンの接種は有効ですが、何よりも大切なことは新型コロナウィルスに感染しないこと=感染対策です。
有効な感染対策とは
有効な感染対策はすでにご存知かと思いますが、以下の通りです。
- 3密(密閉・密集・密接)を避ける
- 効果的な手洗いうがい
- マスクの着用
- 咳エチケット
様々な感染対策がとられている中、残念ながら現在でも感染が続いています。
また、新たな変異株の出現もあります。
実際に、どのような場所で、感染が起こりやすいのでしょうか。
これまで確認された主な感染の発生場所
- 飲食店
- ライブハウス
- カラオケ
- スポーツジム
- 宿泊施設
- 学校
- 高齢者施設
- 病院 など
1年以上にわたる新型コロナウィルスの流行により、すでに発生場所の種類は多岐にわたります。
これらの場所の共通点とはどのようなものでしょうか。
クラスター発生場所の共通点
クラスターが発生した業種に共通される項目は以下の通りです。
- マスクなしの会話
- 飲酒による高揚
- 呼吸数の増加が予想される運動
- 喫煙
自治体による飲食店の時短営業要請などからもわかるように、これまで飲食店におけるクラスターが多く確認されてきました。
飲食の際にはマスクを外しているため、飛まつが飛びやすく、感染リスクが高いためと考えられています。
「マスクをしない=飛まつが飛びやすい」ということは、これまでのクラスターの発生からも十分に理解できるものです。
歯科医院とクラスター
では、①マスクをしない、②飛まつが飛ぶ というリスクだらけにも思える歯科治療は、実際にクラスターが多く発生しているのでしょうか。
ご存知の方も多いかと思いますが、大阪府知事吉村知事が2021年1月19日に歯科医院でのクラスター発生が起こっていないことについてツイートしています。
大阪府内には5,500件の歯科医院があるそうです。
しかし、マスクもせず、口を大きく開けて唾液にも触れるような環境である歯科医院でのクラスターが起こっていないと言います。
同じ規模感の居酒屋ではクラスターが発生しているのにも関わらず、です。
このことから、歯科医院ではクラスターが発生しにくいのではないか?という仮説が立てられています。
かん
実際の歯科における新型コロナウィルスの発生
本当に歯科医院では、クラスターが発生しないのでしょうか。
歯科医院におけるクラスターの発生は0ではない
実は、歯科医院でのクラスター発生は全国的に0ではありません。
仙台市では2020年10月の時点で歯科医院でのクラスターが確認されています。
このため、歯科医院だから感染しないと判断するのは早計です。
しかし、歯科医院におけるクラスター発生は非常に少ない
しかし、実際に歯科医院におけるコロナ感染は割合としてかなり少ないものです。
単純に“飛まつ”の点から考えると感染のリスクが高い歯科医院ですが、コロナ禍以前より診療時にスタッフがマスクを使用していない歯科医院は無いでしょうし、 実際は新型コロナウィルスの蔓延はほとんど起こっていない環境です。
マスクをして行われた職場会議やバスツアー、昼のカラオケ、接待を伴う飲食店などでは、クラスターが発生していると報告されていますが、マスクをせずに飛沫が飛ぶであろう距離で接近する歯科は、意外にもクラスターが発生しておらず、職場会議や交通機関、飲食店よりも “安全”な場所だと推測できるのです。
(参考:クラスター事例集、国立感染症研究所 感染症疫学センターより)
歯科で新型コロナウィルスが蔓延しないと考えられる要因
では、歯科医院において、新型コロナウィルスの蔓延が起こらない要因にはどのようなものがあるでしょうか。
消毒の徹底
歯科医院では、基本的に“スタンダードプリコーション”という考えに則った対応が平時より取られています。
スタンダードプリコーションとは、「感染症の有無にかかわらず全ての患者様を対象に、血液、体液、分泌液、排泄物、損傷のある皮膚、粘膜を感染の可能性のある物質と考えて、対応する予防策」のことです。
「私は特に何の感染症もありません!」とご不快に感じてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、誰にもうつさない、うつされないという基本のもと、現在の医療ではわからない未知のウィルスを広めないという点でも有効な対策です。
歯科治療では、患者様の症状ごとに様々な治療が行われます。
治療の内容に応じて、使用する器具が異なります。
スタンダードプリコーションを基本に、患者さん毎に、使用した治療器具の滅菌やユニット(治療イス)の清拭消毒が行われています。
唾液に触れる器具の使いまわしは絶対にありません。
器具は滅菌といって微生物の生存する確率が 100万分の1以下になるレベルまで感染対策を行っています。
口腔内を触る場合には、グローブを使用するなど、可能なものはディスポーザブル(使い捨て)を使用しています。
言わば、新型コロナウィルスの流行以前から歯科医院は、感染症対策のプロなのです。
口腔ケアによる免疫力アップ
新型コロナウィルスの流行以前から、口腔ケアが全身の健康に重要であることが明らかになっています。
口腔ケアが不十分な場合、口腔内にプラーク(歯垢)や歯石が溜まります。
このプラークや歯石は、細菌の巣になってしまいます。
結果として、脳梗塞、心筋梗塞といった血管の病気や糖尿病の血糖値コントロールの不良、認知症のリスクの向上といった、お口の健康が不良であることから、全身状態が悪化することが分かっています。
特に、免疫力の落ちている高齢者の場合には、誤嚥といって、飲食や嚥下の際に、誤って気管に唾液を介して異物が入り込むことで、肺炎につながる誤嚥性肺炎にも注意が必要です。
高齢者を対象に、口腔ケアを定期的に歯科医師や歯科衛生士が行うことで、頻回に起こっていた発熱が軽減し、肺炎のリスクが減少したという報告があります。
口腔ケアは、身体を守るという点でもとても大切な予防の1つです。
うがいの有効性
新型コロナウィルス対策として、治療前のうがいを行う際、イソジンを使用する大学病院の歯科部門や、歯科医院があります。
これまでもイソジンに含まれるポピドンヨードは、確かに外科手術において手術域の殺菌などにも使われています。
手洗いと、うがいは、感染予防の1つとして、これまでも風邪やインフルエンザの予防に行われてきました。
実際に、風邪を含む上気道の感染症には、うがいが効果的であったという報告がありますが、実は、うがいはインフルエンザに対して効果があるという科学的根拠が確立されていません。
この事からも、新型コロナウィルスに対するうがいの有効性については、未確定であると言えますが、帰宅して手洗いとともに簡便に行うことのできる対策の1つであることは確かです。
うがいをする際には、周囲に飛まつが飛び散らないように、水を吐き出す際には注意をして行いましょう。
(※ヨードには、ごくまれにアレルギーを起こす方もいらっしゃるので、以前使用して喉がかゆい、腫れたといった症状がある方にはお勧めしません。)
誤った歯科医院のコロナ感染防止策にも注意
歯科医院は、スタンダードプリコーションにより、殺菌や消毒が徹底されているために、コロナ感染が少ないと想定されえることは先に説明した通りですが、それ以外にも言われている様々なうわさがあります。
歯科医院は、殺菌能力の高い特殊な水を使用しているのか
新型コロナウィルスの流行により、医療界に限らず、一般の皆様を対象として様々な“水”の効果が取り上げられています。
例えば、イオン水や電解水などはコロナ対策に効果があるのではないか?という見解です。
できる対策はなんでも行っておきたいという気持ちは理解できるものですが、イオン水や電解水の殺菌効果に関して十分な研究が行われているとは言えません。
医療は、エビデンス(証拠)に基づいて行われなくてはなりません。
イオン水や電解水はコロナ感染防止に効果があるとは確証が得られていません。
もしも、歯科医院において“電解水を使用しているのでコロナには感染しません”といった内容がある場合には、安易に信頼しないことをおすすめします。
歯科医院への通院は定期的に
虫歯や歯周病でお悩みの方や、現在はお口が健康状態な方であっても、3か月に1度は口腔ケアとしてお口のメインテナンスに通院していただくことをお勧めしています。
特に、虫歯や歯周病の痛み・不快感がなく、治療の緊急性がない方は、メインテナンスに通院することは、感染リスクや、不要不急の外出の自粛のため、残念ながら通院できていないという患者様もいらっしゃいます。
しかし、繰り返しになりますが、お口の健康は、身体の健康、免疫力の向上に直結します。
もしも、歯科治療を介しての感染の不安がある場合には、個々の歯科医院で行っている対策などをホームページなどで確認してみましょう。
当院でも、患者様からの不安や心配な点について、伺った場合には、行っている対策についてわかりやすく安心していただけるように、説明するよう努めております。
もしも、感染のリスクが不安、家族から歯科治療の受診を控えるように伝えられているという場合には、一度来院いただいてクリーニングを実施する、その際に、適切なセルフケアの方法を歯科医師や歯科衛生士から指導を受けることも可能です。